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Q.3ヶ月経過後の相続放棄が許されたケースとは?

 

東京高等裁判所令和元年11月25日決定の紹介です。

相続放棄ができる熟慮期間の3ヶ月。

弁護士に依頼されたようなケースでは、この熟慮期間のスタートである起算日を解釈によって3ヶ月以内だとして申述書を作成するのですが、ご自分たちで手続きをした場合には、素直に書いてリスクが高い申述も見られます。

今回、素人判断により、家庭裁判所での取り扱いが危なかったケース。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29

事案の概要

申述人らは、被相続人の姉の子でした。昭和7年生まれ、19年生まれの高齢者。

被相続人は、平成29年に死亡したことにより、その相続人となりました。

申述人は、平成31年2月18日付けの市長作成の「亡○様に係る固定資産税の相続人代表者について」と題する書面を同月21日受領。

本件文書には、被相続人は市に固定資産を有していた者(被相続人の夫)の相続人である旨、申述人が被相続人の相続人の一人である旨、上記固定資産の固定資産税に関する書類の受け取りについて、被相続人の相続人の中から代表者を決めてほしい旨記載されていました。

申述人は令和元年6月19日に相続放棄の申述をしました。

書類受領から3ヶ月が経過しているという内容です。

 

最高裁判所の基準

相続放棄は、3ヶ月の熟慮期間に申述しないといけないと言われています。

ただ、この起算点については過去の裁判でも争われました。

民法915条1項に定める相続放棄の熟慮期間は、相続人が、相続開始の原因となった事実およびこれにより自己が相続人であることを知った時から起算すべきものであるが、相続人が上記事実を知った時から3か月以内に限定承認又は放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算するのが相当であるというのが最高裁の考え方です。

この基準をどのように適用するかによって、その後の裁判例でも判断が分かれています。


家庭裁判所の判断

原審の家庭裁判所は、申述人は、遅くとも本件文書を受領した平成31年2月21日には、本件文書により相続財産の存在を認識していたと認められるから、熟慮期間もその頃から起算するのが相当であるとしました。

そうすると、本件申述は、令和元年6月19日に当庁に申述されたものであるから、その熟慮期間が既に経過していることは明らかであるとしました。


なお、申述人は、本件文書を読んで、被相続人の相続放棄申述受理申立ては相続人のうちの誰かが代表してすればよいと考え、被相続人の共同相続人を代表者として相続放棄申述受理申立てをし、その後、上記の考えが誤解であることが判明したため、本件申述をしたなどと主張していました。

しかし、そもそも、共同相続人の代表者であることを明示して被相続人に係る相続放棄申述受理申立てをしたという事実はなく、仮にそのような申立てがされていたとしても、有効であるとはいえないと指摘。

また、申述人が上記のような誤解をしたことなどは熟慮期間の起算点を後にする理由にならないとしました。

相続放棄の申述は不適法であるから、却下となりました。

 

申述人は、不服として即時抗告。

 

申述人の主張

そもそも、申述人は、約70年もの間、被相続人と会ったことはなく、消息も知らないといった関係でした。

平成31年2月下旬ころ、市長作成の「亡C様に係る固定資産税の相続人代表者について」と題する書面を受領したものの、本件文書の記載内容のみによっては、被相続人の資産や債務の内容等は一切分からなかったと主張。

被相続人に係る債務の存在及びその金額を確定的に認識したのは、抗告人は早くとも同年6月10日や同年7月14日であるから、民法915条1項所定の3か月の熟慮期間の起算日は、それ以後とすべきであると主張しました。


また、抗告人らは、同じく被相続人の法定相続人が3人を代表して相続放棄の手続を行っているものと認識しており、実際に、共同相続人は、3名分の収入印紙を添付して相続放棄の申述を行っていたと主張。

そもそも、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合以外には、相続放棄の申述を受理すべきなのであるし、申述人らが法律知識に乏しい高齢者であることを踏まえると、本件各申述を却下することは社会正義にも反すると主張しました。

 


高等裁判所の判断

申述人らと生前の被相続人は、長い間、顔を合わせたり連絡を取り合ったりすることは一切なく、被相続人の消息を全く知らなかったと指摘。

そのため、被相続人の死亡の事実も知らなかったが、平成31年2月下旬ころに受領した本件文書に、相続人の中から固定資産税に関する書類の受取についての代表者を決めてもらう必要があるとの趣旨が記載されていたことから、被相続人の死亡の事実と、自分たちが被相続人の法定相続人に当たることを知ったと認定。


その後、申述人が市役所に問合せを行って、被相続人の所有する不動産の所在地は判明したものの、当該不動産の価値等は一切わからなかったとしています。

申述人らは、相談の結果、面倒な事態に巻き込まれたくないといった漠然とした思いから、相続放棄をすることを決意したが、代表者が相続放棄をすれば足りると誤解していたことから、令和元年5月18日頃、1人のみが申述人として記載された相続放棄申述書を前橋家庭裁判所太田支部に宛てて郵送。ここには、3人分の申立費用額に相当する収入印紙が添付されていました。

 

令和元年6月上旬頃、市役所からの問合せに対し、申述人が、共同相続人が代表して相続放棄を行った旨を述べたところ、市役所の担当者は、相続放棄は各人が手続を行う必要があることを指摘。さらに、被相続人の平成30年分の固定資産税2万9000円が滞納になっていることや、今後、発生する固定資産税は相続人代表者に支払義務が生じることを説明。

これにより、申述人らは、家庭裁判所に自ら相続放棄の申述を行う必要があることや、被相続人に未払の固定資産税があることを初めて認識し、相続放棄の申述したとの経緯を認定しています。

 

3ヶ月経過後も相続放棄はできる

 

申述人らが、本件文書を受領してから3か月以内に相続放棄の申述を行わなかったのは、共同相続人が代表者として申述を行うことによって、相続放棄の手続が完了したと信じていたためであり、そのことは、申述人が相続放棄申述書を代筆した事実や、3人分の収入印紙が添付されていた事実によっても裏付けられていると指摘。

そして、申述人らがそのように信じたことについては、軽率な面があったことは否めないものの、高齢であることや法律の専門家でもなかったこと等からすると、強い非難に値するとまでいうことはできないし、申述人らも相続を放棄するとの認識の下、実際に共同相続人の相続放棄の手続が行われた以上、相続財産があることを知りながら漫然と放置していたといった事案と同視することはできないとしました。

 


また、被相続人とが生前、全く疎遠な間柄であった上、本件文書には、被相続人の資産や負債に関する具体的な情報は何ら記載されていなかったのであるから、本件文書を突然受領したからといって、被相続人を相続すべきか否かを適切に判断することは期待し得ず、高齢の申述人らにおいて、その後、相続財産についての調査を迅速かつ的確に実施することができなかったというのも無理からぬところがあると指摘。

そして、その後、市役所の職員からの説明により、相続放棄の手続は各人が個別に行う必要があることのほか、滞納している固定資産税等の具体的な税額を認識するに至り、自ら相続放棄の申述を行うに至っているところ、このような経緯に照らしても、申述人らの対応に格別不当とすべき点があるとはいえないとしました。

以上のとおり、申述人らの本件各申述の時期が遅れたのは、自分たちの相続放棄の手続が既に完了したとの誤解や、被相続人の財産についての情報不足に起因しており、年齢や被相続人との従前の関係からして、やむを得ない面があったというべきであるから、このような特別の事情が認められる本件においては、民法915条1項所定の熟慮期間は、相続放棄は各自が手続を行う必要があることや滞納している固定資産税等の具体的な額についての説明を抗告人らが市役所の職員から受けた令和元年6月上旬頃から進行を開始するものと解するのが相当であるとしました。

相続放棄の申述はいずれも適法なものとしてこれを受理すべきであるとの結論です。


なお、家庭裁判所は、却下すべきことが明らかな場合を除き、相続放棄の申述を受理するのが相当とも指摘しています。

 

 

他の事案で、簡単に相続放棄が有効という話にはなりませんが、請求書などを受領して3ヶ月経過してしまったという事件でも、被相続人との関係が疎遠であったり、高齢であるようなケースでは、受理される余地はあるといえそうです。

もっとも、本件で一番影響したのは、勘違いとはいえ、3人分の印紙を貼った相続放棄の申述書提出ではないかとも感じます。

 

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