
よくある質問
Q.相続財産管理人の業務は?
相続人がいない場合に選任される相続財産管理人は、その名のとおり、相続財産を管理しますが、それ以外にも手続の中で複数の業務を行います。
相続人財産管理人の仕事
相続財産管理人は、財産を管理する業務をしますが、その一環で、財産目録の作成義務、財産状況の報告義務、管理計算の義務を負っています。
管理については、民法103条の範囲内で相続財産を管理する権限を持っています。
これは、相続財産に関する保存・利用・改良を目的とする行為です。相手から起こされた訴訟に応じる行為は許可がいらないとされています。
これを超える場合は、権限外行為の許可として、家庭裁判所の許可が必要です。
財産処分、遺産分割協議などは許可が必要です。
不動産の売却はもちろん許可が必要ですが、被相続人がすでに売却した不動産の登記移転行為は許可がいらないとされています。
許可がないのに勝手にやると、無権代理行為になり無効です。
名古屋高判昭和35年8月10日。
許可なく控訴を取り下げた行為を無効と判断しています。
「相続財産の管理人が同法第百三条所定の権限を超える行為をしようとする場合には同法第九百五十三条第二十八条により為らかじめ家庭裁判所の許可を得ることを要し、しかも本件のような控訴の取下は同法第百三条所定の権限を超える行為であると解すべきところ、右管理人両名は、あらかじめ家庭裁判所の許可を得ることなくして前記控訴取下の申立をしたのであるから、右申立は無効であるというべきである(なお、当裁判所は前記控訴取下書が提出されたため過つて事件が終了したものとして本件記録を原裁判所に返還し、原裁判所もまた過つて原判決の確定証明書を下付しその結果被控訴人は、原判決にもとずき、その主張にかかる本件土地全部につき津地方法務局桑名出張所昭和三十三拝四月十八日受付第二二六八号をもつて被控訴人名義に所有権保存登記手続をしたが右登記は、違法な登記であること叙上の経過に照して明白であるから、いずれも抹消さるべきものである。)。」
相続財産管理人が家庭裁判所に許可を求めたのに、許可が出なかった場合でも不服申立てはできないとされています。
相続財産管理人からの訴えと家庭裁判所の許可
相続財産管理人が訴えられた裁判に応じるには許可がいらないとされています。
これに対し、相続財産管理人から訴えを起こす場合については、許可が必要という考え方が主流です。
実務上は、相続財産管理人から家庭裁判所に許可を求めているでしょう。
相続財産管理人の委任上の義務
相続財産管理人には、民法の委任の規定が準用されています。
そのため、委任契約で発生する善管注意義務、受取物引渡義務、消費金額の賠償義務を負い、費用を負担した場合の費用償還請求権を持っています。
また、個別規定で、相続財産管理人は、相続債権者又は受遣者に対して、請求に応じて、相続財産状況を報告する義務を負っています。もともと家庭裁判所への報告義務はありますが、それ以外に、債権者から請求があれば報告する義務があるのです。
相続財産管理人による弁済
相続財産管理人は、債権申出公告をした後、相続人が判明しないときは、申出債権者や知れたる債権者に対して弁済します。公告期間中は、弁済期が来ている相続債権者や受遣者から請求があっても、拒絶できます。
弁済の優先度については、限定承認と同じ扱いになります。
相続財産上に、抵当権、先取特権等を有する債権者は優先され、民法957条1項の公告期間満了前でも、担保権等の権利を実行できます。
弁済としては、このような優先債権者をのぞくと、民法957条1項の公告期間内に申出をした相続債権者や知れたる債権者に対して弁済します。その際、財産が少なければ、配当になります。
債権者への配当が終了しても余りがあれば、受遺者、申し出をしなかった債権者へ弁済となります。
なお、抵当権者が抵当権を実行するには登記が必要です。抵当権設定の合意がありながら、未登記の場合、仮登記もないと登記請求ができないとした判例があります。
最判平成11年1月21日。
「相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。)、相続債権者は、被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし、被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても、これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。」
「相続財産の管理人は、すべての相続債権者及び受遺者のために法律に従って弁済を行うのであるから、弁済に際して、他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして、優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると、そのことがその相続財産の換価(民法九五七条二項において準用する九三二条本文)をするのに障害となり、管理人による相続財産の清算に著しい支障を来すことが明らかである。したがって、管理人は、被相続人から抵当権の設定を受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきである。
以上の理由により、相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解するのが相当である。限定承認がされた場合における限定承認者に対する設定登記手続請求も、これと同様である」
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