よくある質問
Q.形見や遺骨は受け取れる?
相続放棄をすると、故人のものには一切触れられないと思われがちです。
ですが実際には、遺骨や仏壇、お墓のような供養に関わるものは相続財産とは別に扱われ、引き取りや管理が可能です。
一方で、預金や車、ブランド品など経済的価値のある遺品に手を出すと、相続放棄が無効になるおそれがあります。形見分けや遺品整理で迷いやすいポイントを整理します。
相続放棄をしても形見や遺骨は受け取れる?
身内が亡くなったあと、借金が見つかり、相続放棄を考える。
これは珍しいことではありません。むしろ今は、相続放棄はかなり身近な手続きになっています。
近年、この手続きを選択される方は非常に増えています。司法統計によれば、令和6年には相続放棄の申述受理件数が30万8千件を超え、過去最高を記録しました。
ただ、実際に相談を受けていると、多くの方が気にされるのは借金の話だけではありません。
「相続放棄をしたら、遺骨も引き取れないのか」
「写真や手紙まで持って帰ったらダメなのか」
「仏壇やお墓まで放棄しなければいけないのか」
こうした不安はとても自然です。亡くなった方への気持ちがあるからこそ、法律上どこまで関わっていいのかが分からず、身動きが取れなくなることがあります。
ですが、ここは必要以上に思い詰めなくて大丈夫です。相続放棄をしても、故人との関わりがすべて断たれるわけではありません。受け取ってよいものと、手を出してはいけないものは分かれています。その線引きをきちんと理解しておけば、借金を引き継がずに、供養や形見の整理を行うことは十分に可能です。

相続放棄をすると何ができなくなるのか
相続放棄をすると、法律上は「初めから相続人とならなかったもの」と扱われます。
亡くなった方の預貯金や不動産などのプラスの財産も受け取れませんし、借金などのマイナスの財産も引き継がなくて済みます。
この説明だけを聞くと、「故人に関するものには一切触れてはいけない」と思ってしまう方がいます。けれど、実際にはそう単純ではありません。
故人に関わるものの中には、相続財産として扱われるものもあれば、そうではないものもあります。
たとえば、預金や車のように経済的な価値を持つものと、遺骨や仏壇のように供養や祭祀に関わるものとでは、法律上の扱いが違います。
この違いを知らないまま動くと、本当は問題のない行為まで避けてしまったり、逆に危ない行為をしてしまったりします。相続放棄では、この区別がとても大事です。

仏壇やお墓は相続放棄をしても引き継げる
まず、仏壇やお墓についてです。
墓地、墓石、仏壇、位牌、家系図などは、通常の相続財産とは別に扱われる「祭祀財産」と考えられています。これは、単なる経済的価値ではなく、先祖を祀り、供養するためのものだからです。
そのため、相続放棄をしていても、仏壇やお墓を引き継いだり、管理したりすること自体は問題ありません。ここを勘違いして、「相続放棄をした以上、仏壇に触れてはいけない」と考える必要はありません。
実際には、借金の相続は避けたいけれど、仏壇は守りたい、お墓の管理は続けたいという方は少なくありません。その気持ちは法律上も無理のあるものではありません。

遺骨も相続財産ではない
遺骨について不安を感じる方も多いです。ですが、遺骨は相続財産ではありません。
ですから、相続放棄をしたあとでも、遺骨を引き取ることはできます。埋葬や納骨、供養を行うことにも支障はありません。親族や病院、施設などから「遺骨を引き取ってほしい」と言われて対応したとしても、それによって相続放棄が無効になるわけではありません。
この点は、気持ちの面でも重要です。相続放棄は、借金や法的な責任を引き受けないための手続きです。故人を見送ることまで放棄させるものではありません。

形見分けはどこまでなら大丈夫か
問題になりやすいのは、形見分けです。
故人が使っていた衣類、手紙、写真、アルバムといったものは、通常、経済的価値がほとんどありません。こうしたものを受け取ることは、一般に形見分けの範囲内と考えられます。相続財産を処分したと評価される可能性は低いでしょう。一般常識の範囲内(市場で売却しても値がつかないようなもの)であれば、これを受け取ったとしても「相続財産の処分(単純承認とみなされる行為)」には当たらない可能性が高いといえます。
一方で、時計、貴金属、ブランド品、骨董品、価値のある美術品などは別です。思い出の品という気持ちは分かりますが、客観的に見て値段がつくものは、相続財産と評価される可能性があります。これを持ち出したり、自分のものとして扱ったりすると、相続放棄との関係で大きな問題が生じます。
つまり、形見分けで本当に大丈夫なのは、売ってもほとんど価値がないものです。故人との思い出があることと、法的に価値がないことは別問題です。ここは感情だけで判断しないほうが安全です。
一応、昭和3年の判例で衣類でも一般価額を有するものを他人に贈与したことを単純承認としたものはあります。
その後は、古着や、背広を形見の趣旨で分けたものは相続財産の処分にはならないとした裁判例が出ています。形見分けのようなものであれば、争われる事案自体が少ないですが、争われた場合には、経済的な価値がないと主張できるものにとどめておいた方が無難とはいえます。

いちばん注意したいのは「価値のある遺品」に触れること
相続放棄の際に避けなければならないのは、経済的価値のある財産を勝手に処分したり、自分のために使ったりすることです。
たとえば、次のような行為はかなり危険です。
故人名義の預貯金を引き出して使うこと。
価値のある家電や車を売ること。
株式や保険金の扱いを自己判断で進めること。
ブランド品や高価な時計を持ち帰ること。
故人の財産から借金を返済すること。
こうした行為は、相続財産を処分したと見られるおそれがあります。そうなると、相続放棄をしたつもりでも、結果的に単純承認と評価されるリスクが高いです。単純承認になれば、借金を含めた相続全体を引き受けることになりかねません。
この分野は、「少しくらいなら大丈夫だろう」という感覚がいちばん危ないところです。

家主や親族から遺品整理を求められたときは要注意
実務では、亡くなった方が賃貸住宅に住んでいたケースでトラブルになりやすいです。
家主から「部屋を明け渡したいから荷物を片付けてほしい」と言われたり、親族から「とりあえず全部処分しておいて」と頼まれたりすることがあります。
気持ちとしては対応したくなるでしょうし、放っておくことに後ろめたさを感じる方もいます。
ですが、相続放棄をする、あるいはすでにしたのであれば、独断で遺品を処分するのは危険です。不用品回収業者を呼んで一括で処分した場合でも、法的には相続財産の処分と見られる余地があります。
特に、部屋の中に価値のある物が混じっているかどうか分からないときは、なおさら自己判断で進めるべきではありません。家主から急かされても、自分に処分権限がない以上、安易に応じないほうがいい場面があります。

相続放棄をした人にも管理が問題になることはある
もうひとつ知っておきたいのは、相続放棄をしたからといって、何もかも完全に無関係になるわけではないという点です。
故人の財産を現に占有している場合には、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、一定の範囲で管理が問題になることがあります(民法940条等)。たとえば、同居していて故人の財産を手元で管理していた場合などです。
反対に、もともと別居していて、故人の財産を管理していなかったのであれば、その義務まで広く負うわけではありません。
このあたりは、同居か別居か、鍵を持っているか、実際に遺品を手元に置いているかなど、具体的な事情で判断が変わりやすいところです。一般論だけで決めつけないほうがいい部分でもあります。

家主や債権者への対応は書面で進めたほうがいい
家主や債権者から連絡が来たとき、電話で何度も説明しても話がかみ合わないことがあります。
そのような場合は、相続放棄申述受理通知書の写しを送って対応するのが有効です。こちらは相続人ではないこと、支払義務や処分権限がないことを、口頭ではなく書面で示せるからです。
実務では、この一枚があるだけで相手の態度が大きく変わることがあります。感情的に押し切られそうな場面ほど、書面で整理したほうがいいです。

相続放棄をしても、何もしてあげられなくなるわけではない
相続放棄という言葉には、どうしても冷たい響きがあります。ですが、実際にはそうではありません。
借金を引き継がない。これは生活を守るために必要な判断です。その一方で、遺骨を引き取り、仏壇を守り、写真や手紙を手元に残すことまで禁じられるわけではありません。
大切なのは、供養や思い出の整理と、相続財産の処分とを混同しないことです。この線を越えなければ、故人を悼むことと、自分の生活を守ることは両立できます。
この場面で無理に「何もするな」と言い切るのは違うと思っています。気持ちの整理のために必要なことはあります。ただし、価値のある物に手を出す場面だけは慎重であるべきです。そこは感情ではなく、法的な線引きで考えたほうがいいです。

迷ったときは自己判断で進めないほうがいい
相続放棄は、一見すると単純なようで、実際には細かい判断が多い手続きです。
これは形見分けで済むのか。
この遺品には価値があるのか。
家主にどこまで対応すべきか。
遺骨や仏壇は引き取って問題ないのか。
こうした疑問は、少しでも迷いがあるなら、自己判断で進めないほうが安全です。一度した行動があとで問題になると、やり直しがききません。
相続放棄は、故人との縁を切るための制度ではありません。借金を背負わないための制度です。その前提を外さず、してよいことと、してはいけないことを丁寧に分けて考えることが大切です。

相続放棄を含めた家事事件のご相談は、ジン法律事務所弁護士法人までご相談ください。














