よくある質問
Q.借金返済、賃貸契約の解約は?
相続放棄では、預金の引き出し、借金の返済、賃貸契約の解約など、何気ない行動が民法921条の「法定単純承認」に該当し、放棄できなくなるケースもあります。
空き家管理や親族への影響も含め、相続放棄では“触ってはいけない行為”を理解し、慎重に進めることが重要です。
相続放棄と単純承認
相続が始まった直後、通帳に手を伸ばすかどうかで、その後の展開は大きく変わります。
借金が多い、空き家の管理も難しそうだ。
そう感じて相続放棄を考えているのに、最初の一手で「もう放棄できない」状態に入ってしまうことがあります。民法921条の法定単純承認です。

ここ数年、相続放棄は一気に増えました。令和元年の約22万5千件が、令和6年には30万8,753件です。身近な手続きになった分、初動のミスも増えている印象があります。
預金に触ると何が起きるのか
相続人には、財産の中身を確認する権利があります(民法915条2項)。
残高を見る、明細を確認する。ここまでは問題ありません。

ただし、引き出して使うと話が変わります。たとえ葬儀費用でも、金額や事情によっては「処分」と見られる余地があります。葬儀費用の支払いについては、身分相応の範囲内であれば処分行為に該当しないとする傾向もありますが、預金から高額な支出を行うことは、依然として民法921条1号の「処分行為」とみなされるリスクを孕んでいます。
もっとはっきり危ないのは、借金の支払いです。遅延損害金を止めたい、迷惑をかけたくない。その気持ちは自然ですが、相続財産から返済すると「相続を受け入れた」と評価されやすくなります。

一度ここに入ると、やり直しはききません。
督促が来ても、相続財産からは支払わない。この判断が重要です。
アパートの解約は急がない方がいい
賃貸物件の家賃を止めたい。だから解約する。この流れはよくあります。

しかし、放棄の前に解約すると、「自分は相続人として処理している」と見られる可能性があります。
「賃料債務の増加を防止する目的で、被相続人が契約者となっていた賃貸借契約を解除する行為」もまた、処分行為に該当するリスクがあります。 民法939条により、相続放棄が受理されれば「初めから相続人ではなかった」ことになります。しかし、放棄の申述前に独断で契約解除を行うことは、自らが権利者(相続人)であることを前提とした行動とみなされます。専門家の助言なく管理会社や賃貸人と交渉し、解約手続きを進めることは極めて危うい行為です。
相続放棄が受理されれば、未払賃料や原状回復費用は引き継ぎません。ただし、残置物の処分権限もありません。ここで手が止まる方は多いです。
管理会社や貸主とどう整理するか、次順位の相続人とどうつなぐか。先に筋道を作ってから動いた方が安全です。
空き家は「放棄したら終わり」ではない
放棄すれば不動産とも無関係になる。そう思われがちですが、実務はもう少し複雑です。
放棄した時点で、その不動産を現に管理している場合、次の管理者が現れるまで維持する義務が残ります(民法940条)。完全に手が離れるわけではありません。

その財産を「現に占有している(管理している)」場合、次の相続人や相続財産清算人が管理を始められるようになるまで、その財産を保存しなければならないと定めています(民940条等)。
放置して外壁が落ちる、屋根が崩れる。第三者に被害が出れば、損害賠償の問題になります(民法717条)。
空き家を放置し、倒壊や外壁の剥落によって第三者に被害を与えた場合、工作物責任(民717条)等に基づく損害賠償責任を問われるリスクがあるのです。

熟慮期間中の管理、放棄後のつなぎの管理。これは書類一枚では片付きません。空き家が絡む場合は、相続財産清算人の選任も検討が必要です。
現に管理をしている状態の場合、相続放棄のみでは責任から解放されず、次の管理者を選ぶ手続きまで進める必要が出てくるのです。
放棄は自分だけの問題で終わらない
相続放棄は単独でできます。ただし、影響は周囲に広がります。
子が全員放棄すると、次は親へ。親がいなければ兄弟姉妹へ。甥や姪にまで及ぶこともあります。
相続権は以下の順位で移動していきます。
第1順位:子(およびその代襲相続人)
第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
第3順位:兄弟姉妹(およびその代襲相続人・甥姪)

第1順位の者が全員放棄すれば、次は高齢の父母へ、父母がいなければ疎遠な兄弟姉妹や甥・姪へと進みます。
連絡をしていないと、ある日突然請求書が届きます。これで関係が悪化するケースは少なくありません。
放棄するなら、誰に相続権が移るのかを把握しておくことが大切です。事前に一言伝えておくだけでも、トラブルはかなり防げます。
相続放棄は、相続人が単独で行える意思表示ですが、その影響は親族全体に及びます。
結局どこで差がつくのか
相続放棄は、書類を出して終わる手続きではありません。触ってよい財産と触ってはいけない財産の見極め、管理の続け方、関係者への対応。このあたりで結果が分かれます。
葬儀代を払った。借金を少し返した。部屋を解約した。どれも自然な行動ですが、組み合わせ次第で致命的になります。

実務では、「そんなことで」と思う一手で詰んでいるケースが目立ちます。逆に、最初の数日を慎重に動けば、きれいに整理できることも多いです。
迷ったら一度止まる。この判断だけでも結果は変わります。
相続放棄を含めた家事事件のご相談は、ジン法律事務所弁護士法人までご相談ください。














