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再転相続と相続放棄(最判令和元年8月9日)

 

相続放棄と再転相続についての最高裁判決の紹介です。

元年8月9日に出た相続放棄の最高裁判決についての解説です。


再転相続や二次相続と呼ばれる形態の相続放棄の争点について新しく最高裁が判断しました。
チェックしておきましょう。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.29


相続放棄とは?

相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も放棄する手続きです。

多くの場合は、被相続人に借金があるので、その責任を負いたくないというときに使われています。
親が借金を負っていた場合や、兄弟の借金の請求が来たというようなケースです。
それ以外に、連絡ととっていなかった親族に関わりたくない、という場合に使うこともあります。


正式な手続きとしては、家庭裁判所に申立をして受理してもらう必要があります。

この相続放棄に関しては、相続があったことを知ってから3か月以内にしなければならないとされています。

この3カ月以内という期間を熟慮期間と言います。


この期間がすぎる前に、裁判所に申請をすることで、延長してもらえることもあります。
調査期間が足りないような場合です。


今回の事例

今回の最高裁判決では、熟慮期間に関して判断されています。

熟慮期間を過ぎた相続放棄は無効です。
熟慮期間内なら有効です。

そこで、熟慮期間はいつから始まるの?ということが争われるのです。


単純に、親が亡くなって、3か月以内に相続放棄をするという場合には、わかりやすい話です。

しかし、今回の場合、再転相続という問題があります。
これは、相続が2つ重なるようなケースです。


今回の事案では、父がいて、その子供が裁判の当事者になっています。

その父には、兄(伯父)がいて、伯父が債務を負っていたところ先に死亡。

伯父が亡くなった後に、先順位の相続人(親や子)が相続放棄しました。
しかし、父はそれを知らずに死亡。
先順位の相続人の相続放棄によって、兄からの相続が自分に移って来たタイミングで亡くなったのです。

相続については、知らないで父は亡くなったので、当然、父は伯父からの相続について、相続放棄をしていません。


父が亡くなったこと自体は、子供はすぐに知ったけれども、相続放棄はしていません。
そして、伯父から父への相続については知りませんでした。

伯父 父 ①
 子 ②
への2つの相続の話があります。

父は①の相続を知らずに亡くなっています。


そして、3年後

伯父の債権者が、子供に対して請求してきたという話です(厳密には強制執行の準備の通知)。


熟慮期間に対するそれぞれの主張

子供としては、「いや、①は知っていたけど、②は聞いてないよー」
となり、あわてて相続放棄をしたのです。

それに対して、債権者は、「もう3か月過ぎてるから、相続放棄は無効でしょ」と主張。

裁判としては、強制執行の準備がされていたので、請求異議の訴えという裁判の中で、この相続放棄の有効性が争われました。


この中で、民法916条の解釈が問題になりました。

民法916条

「 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。」

この916条は、被相続人が相続の承認や放棄をしないで死亡したとき、その熟慮期間に関しては、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算します
という規定になっています。


もともと、この規定は、被相続人、このケースでいうと、父が、伯父からの相続放棄をするかどうか考えていて、3ヶ月の熟慮期間のうち2ヶ月を使ってしまい、あと少しで熟慮期間が終わってしまう、というタイミングで死亡してしまうと、その相続人は、わずかな期間しか残されていなくて、相続放棄をするかどうか決められない、という事態を避けるために設けられたと言われます。


今回の問題としては、この民法916条の「自己のために相続の開始があったこと」という部分が何なのかが争われました。

「自己のために相続の開始があったこと」の解釈

ここは2つの考え方があります。
一つは、自分の被相続人からの相続、父からの相続、②の相続の開始があったことを知ったときという考え方。
もう一つは、再転相続、伯父→父への相続、①の相続について知ったときという考え方です。

文献等によると、通説的な考え方は、前者。
の相続の開始があったことを知ってから起算するという考え方です。


今回のケースで、その考え方を適用すると、子は父からの相続については知っていたので、そこから熟慮期間が始まり3か月を経過、相続をしてから3年経っているので、債権者の主張「相続放棄は無効」となりそうな話になります。

原審である高裁は、民法916条の解釈については、このような②の相続が対象という考えを採用しました。
しかし、結論としては相続放棄を有効としました。


916条の解釈として、被相続人の父親が①の相続を知らないで亡くなったときは、916条は適用されず、民法915条の規定によって、相続放棄の有効性を解釈すべきとしたものです。


民法916条

「 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。」

は、被相続人が、対象となる相続があることを知っていて、どうするか悩んでいたことが前提、対象となる相続があることすら知らなかった場合には適用されないという考えです。


相続放棄についての最高裁の考え方

これに対して、最高裁は結論としては相続放棄を認めましたが、高等裁判所の論理は否定。
916条の相続の開始とは、②ではなく、①であると認定しました。

条文の中に、「被相続人が知っていた場合」みたいに限定されていない、今回のケースでいう父が1番の相続を知っていたか知っていなかったかとか条文には書いていないと指摘。


最終の相続人である子が、自分の父よりも上の①の相続に関しても発生しているのだと、自分に承継するのだということを知ってから熟慮期間の3ヶ月のが開始するという結論を採用しました。

通説的な考え方とは違う解釈を示したということで、他の論点にも影響が出る判断となるでしょう。

「(1) 相続の承認又は放棄の制度は,相続人に対し,被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく,被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は,相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり,被相続人から相続すべき相続財産につき,積極及び消極の財産の有無,その状況等を調査し,熟慮するための期間である。そして,相続人は,自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ,当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから,民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,原則として,相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される(最高裁昭和
57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698
頁参照)。
(2) 民法916条の趣旨は,乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。
再転相続人である丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知らなければ,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が,乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。
以上によれば,民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
なお,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について,乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは,同条がその適用がある場面につき,「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。」


動画での解説はこちら



相続放棄は自分には関係がない?

相続放棄の件数は、統計上、増えています。
離婚・再婚があったり、遠い親族がいたりすると、連絡をとっていない被相続人の債務について、突然請求を受けることがあります。
まして、今回のように、再転相続、二次相続では、予想外の請求を受けることになります。

今回、当事者となった子は、強制執行の準備の通知が急に届き、あわてて請求異議の訴えを起こしたという事案です。

みなさんも、相続を理由に、急に請求を受けることがあるかと思いますので、相続放棄という制度は覚えておいた方が良いかと思います。


実際にお困りの方は、ジン法律事務所弁護士法人までご連絡ください。

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